英語教育の重要性が叫ばれて久しいですが、日本人の英語力が改善した、向上したといった話はあまり聞こえてきません。
小学生のカリキュラムに英語が組み込まれました。私たち親世代の「英語は中学生から」というイメージはもう過去のものになってしまいました。
では、日本の英語教育はうまく機能していなかったのでしょうか。文部科学省は責任を追及されるべきなのでしょうか。
1年間カリフォルニアに企業派遣で滞在してみて感じたことを書いてみたいと思います。
日本人は英語が苦手なのか
まず、日本人は本当に英語が苦手なのでしょうか。
日本人は「読み書きはできるが、会話はできない」と思っています。そしてそれは事実です。
カリフォルニアにはメキシコをはじめ、中南米からたくさんの方々が働きにきています。彼らの中には十分な教育を受けておらず、まともに英文を読めないような人もいます。
ただ、いざ話し始めると圧倒されるほどの勢いで言葉が出てきます。よくよく聞けば文法や時制に間違いが多々あるのですが、日本人なんかよりもよっぽどコミュニケーションが取れています。
語感が似ているため、わざわざ母国語に脳内で変換する必要が無いのかもしれません。その点は日本人よりも有利でしょう。
しかし、会話では後れを取る日本人ではありますが、ペーパーテストでは負けません。義務教育でしっかりと英語を勉強しているだけあって、その差は歴然です。
メキシコの方で傍目にはペラペラに見えるような人でも、ペーパーテストでは日本人の後塵を拝しています。
では、「我々日本人が彼らくらいまで英語を話せるようになる」のと、「彼らが日本人くらいまで英語の読み書きができるようになる」のとでは、時間がかかるのはどちらでしょうか。
個人的な感想ですが、恐らく日本人が話せるようになる方が圧倒的に早く、しかも楽にできると思います。
中高の机に座っての6年間、あれと同じことを社会に出てからできるでしょうか。いろいろと批判されている日本の英語教育ですが、決して無駄ではなかったと感じました。
読み書きも含めた総合的な力で言えば、日本人の英語能力は低くないと思います。
大人は1年ではしゃべれない
私の話です。
海外派遣の条件として規定されているTOEICの最低スコアは当然クリアしています。博士号取得のために海外ジャーナルへ論文を投稿しています。海外の学会で発表をしたこともあります。
それにも拘らず、「英語がしゃべれますか」と問われると「少し」としか答えられないでいました。そんな折、海外派遣が決まりました。
英語力に不安はありましたが、「1年間海外で揉まれてくれば英語なんてペラペラだ」とも思っていました。妻も「日本に戻ったら海外部門に行こうかな」という感じで、当然しゃべれるようになるものだと思い込んでいました。
ただ、現実はそんなに甘くありませんでした。研究者としての滞在だったため、それほど会話をする機会が多くなかったのもあるのですが、ペラペラとは程遠いです。
「どうせ1年で帰る」、この考えが根本にあったせいかもしれません。
妻も同様です。ただ「電話をするのは苦じゃなくなった」と言っています。私は未だに苦ですが。
一方で息子たちは完全に学校に溶け込んでいました。滞在途中から「日本に帰りたくない」と言い出す始末です。伝えたいことの大部分は英語で表現できている様子でした。
これが「生きた英語に触れる」ということか、と痛感させられました。日本の英語教育も悪くはないと思いますが、やはりこれには到底敵わないです。
ちなみに末娘は日本語もそんなにしゃべれない状態で渡米しているので「ハーイ」じゃなくて “Hi” になってしまいました。ほとんどアメリカ人です。
そもそも英語を学ぶ必要はあるか
大手企業であれば、サラリーマンであっても年収1000万を超えます。かなりの高収入ですが、これを日本から一歩も出ることなく達成できるわけです。
それなのになぜ必死で英語を勉強する必要があるのか、それに答えるにはお金以外の魅力を語らなくてはなりません。
一方、発展途上国の人たちからすれば英語ができるかできないかは生活に大きく関わります。母国を抜け出さないことには豊かな生活ができません。
はっきり言ってハングリー精神が違います。大相撲においても外国人力士が占める割合は増加の一途です。
いくらグローバル社会だなんだと言っても、生きるか死ぬかに関わるような問題になるまではあまり響かないでしょう。
実際、英語をフル活用しなくてはならない日本人の数なんて大したことはありません。
英語が必要になった人だけが一生懸命勉強すればいいのです。自分で英語を勉強するための基本は義務教育により保証されています。
この先10年、20年とすればまた状況は変わってくるでしょうが、現状の日本の英語教育はそれなりに機能していると思います。
大幅な改革ではなく、先を見て少しずつ対応していけばいいのではないでしょうか。