帰国子女・ハーフに見る英語の早期教育の効果:真のバイリンガルとは

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2008年度から小学校での英語教育が導入され、以降は高学年だけでなく4年生、3年生へと徐々に低学年化が進んでいます。

 

英語が喋れなくても生きていける人の方が圧倒的に多くはありますが、英語学習の必要性が高まっているのは事実です。

 

裕福な家庭では英語学習にお金をかけ、裕福でない家庭でも無理して英語学習の費用を捻出しています。我が子には英語で苦労してほしくないと、オールイングリッシュの保育園に通わせる家庭も首都圏では珍しくありません。

 

その一方で、幼少期から英語教育を行うことの弊害を訴える人もいます。何事にもメリットがあればデメリットもあるので、難しい問題と言えます。

 

1年間カリフォルニアに企業派遣で滞在したときに出会った日本人、ハーフ、我が子を見て感じた英語の早期教育の功罪について書いてみたいと思います。

帰国子女は相当苦労している

カリフォルニアにはたくさんの日本人が住んでいます。永住権を持つ人、1年や2年といった短期滞在の人、いろいろです。

 

短期滞在組には、霞が関から来ている上級公務員、企業や公的機関の研究員、国際法を学びに来た弁護士、その他エリートと呼ばれるような方たちがたくさんいます。その半分くらいが配偶者およびお子さんを一緒に連れてきているような印象です。

 

黙っていてもペラペラにはならない

日本人学校があるわけではないので、子供たちは現地の学校に通うことになります。もちろん英語での授業です。

 

カリフォルニアには中南米、中国からの移民がたくさんいますので、英語が苦手な子もいます。また、英語の補修クラスがある場合もあります。

 

とはいえ、基本的には自分以外のほぼ全員が英語をしゃべれる環境です。英語をしゃべれるようにならないとどうにもなりません。

 

ただでさえ慣れない環境になるのに言葉も通じない、これはかなりつらいと思います。学校に馴染めず、学校に行っても誰ともしゃべらない子もいます。毎朝登校前になると泣いてしまう子もいます。

 

学年が上がれば上がるほど大変そうです。なんとか溶け込もうと一生懸命頑張っているからしゃべれるようになっていくのです。

 

「早期から英語に触れたから」ではなく、「早期から英語に触れて、かつ頑張ったから」です。

 

日本の勉強もある

短期滞在の場合は1年後、あるいは2年後には日本に帰るわけです。当然アメリカの授業を受けているだけでは日本に帰った時に困ってしまいます。

 

中学受験を考えている家庭はより大変です。帰国子女枠のある学校があるとは言え、最近は倍率も高くなってきています。

 

そこで、帰国後に困らないよう大抵の家庭では日本語の補習校へ行きます。

 

もちろん平日は現地の学校があるので土曜日に行きます。いくつも学校があるわけではないので、長時間かけて大都市まで出ていかなくてはなりません。

 

そこで朝から夕方まで勉強します。そして宿題も大量に出ます。小学校からもらう英語の宿題と補習校からもらう日本語の宿題のダブルパンチです。

 

子供だけでなく親の負担も相当のものです。車での送迎、日本語・英語両方の宿題のチェック、思った以上に大変です。

 

日本で子供にこれだけ英語の勉強をさせられますか。

 

日本語のレベル

こちらで生まれ育った日本人の子供たちが使う日本語は、年齢に比べてとても幼く感じます。語彙量もかなり少ないです。

 

基本的には家庭と補習校だけでしか日本語を使いませんので、どうしても学習時間が足りません。特に読み書きは個人差が大きく、半ば諦めてしまっているような子もいます。

 

日本に来る予定が無いのであればいいですが、将来日本で暮らすとなると苦労しそうです。見た目が外国人であれば優しくしてもらえますが、純日本人であれば当然読み書きができるものと見なされます。

 

「苦労せず英語がしゃべれていいな」と一方的に羨ましがるのではなく、「その代わり日本語で苦労したんだな」ということを見落とさないようにしてください。

 

「簡単にバイリンガルになれてラッキーだね」という評価はとても失礼です。

 

ハーフもしゃべれない

カリフォルニアにはたくさんの日本人がいます。必然的に日本人と外国人のハーフも結構な数います。

 

日本では目立つ存在ですが、こちらでは極々当たり前のことです。「あの子、お父さんは日本人なんだ!?」と驚くことも多々あります。

 

両親が違う言語を使うからと言って、彼らがバイリンガルになるとは限りません。2つの言語をマスターするというのはそう簡単なことではないようです。

 

学校では英語を使うので、英語はもちろんペラペラです。ただ、日本語もペラペラかと言うとそうではありません。

 

家の中で父親は英語で、母親は日本語で話すというのはかなり不便です。そして意識して子供に話しかけないと、ほとんど言葉を覚えないようです。

 

長男、次男はなんとか日本語もしゃべれるけれど、三男は英語だけという家庭がありました。「さすがに三人目は疲れた、どうせ日本に行くわけでもないから」とのことです。

 

ある家では父親が日本人で、母親の母国語がスペイン語です。そこの子供は英語とスペイン語しか話せないとのことです。

 

日本語・英語・スペイン語の3つはさすがに子供に負担のようで、それなら一番役に立たない日本語をやめようとなったそうです。

 

ハーフの子で日本語の補習校に通っている子もいますが、やはり苦労しているようです。

 

帰国子女に対するのと同様、一方的に羨ましがるのはとても失礼になります。

 

子供にどれくらいの英語力を求めるかにもよりますが、早期教育をしたからと言って簡単に身につくとは思わないことです。

 

英語の早期教育の是非

大前提として

いろいろなところでいろいろな人が英語の早期教育の有効性を説く一方、それと同じくらいの人が弊害を説いています。

 

どんなものでもメリットだけ、デメリットだけというのはあり得ません。どれだけ高名な専門家や識者の意見が自分と反対の意見であっても、いちいち右往左往する必要はないと思います。

 

英語の早期教育など受けたはずがない高齢の先生が海外の学会で絶賛されています。海外生まれの有能なバイリンガルの日本のビジネスマンがいます。

 

自分がいいと思えばやる、だめだと思えばやらない、これだけです。あまり気にしても仕方がない気がします。

 

一番のメリット

個人的に英語の早期教育における最も大きなメリットだと思うことを挙げます。

 

それは「外国人と英語で話すことに抵抗がなくなる」ということです。

 

結局これが日本人の英語学習が進まない最も大きな原因だと思うからです。この心理的障害がなくなるだけで、英語力の向上のスピードが段違いになります。

 

読み書き、語彙量といったものは机に向かって勉強しなければ仕方がありません。逆に言えば、机に向かってさえいればそれなりにできるようになります。

 

日本人が「英語が苦手だ」と言われるのは読み書きばかりで会話ができないからです。そして読み書きができるのに会話ができないのは苦手意識があるからです。

 

海外の友達に手を挙げて「ハーイ」とあいさつする我が子を見て安心しました。恐らく子供たちは彼らとの会話に何の抵抗も感じていないことでしょう。

 

帰国後、英語力はどんどん低下しているでしょう。ただ、中学、高校と英語を勉強し始めればすぐに取り戻し、さらに上達できると思っています。

 

大人の会話ができるか

英語で日常会話ができればそれで充分なように思っている人がいます。

 

しかし、本当に重要なのはそれで商売ができるか、交渉ができるか、議論ができるかという「大人の会話」ができるかどうかです。

 

早期教育を行えば日常会話はできるようになる可能性は高いと思います。しかし、大人の会話ができるかどうかはわかりません。

 

どれだけ英語を勉強したところで、日本語よりも堪能になるわけではありません。日本語でできる議論のレベルよりも高いレベルで英語の議論ができるわけがないのです。

 

よく「英語は道具だ」と言われます。道具を使う人間が優秀でなければ意味がない、まさにその通りです。

 

複数の言語を学習することで両方の言語のレベルが上がると言う研究成果もあります。ただ、母国語の学習が疎かになるような英語教育を施すことはマイナスでしかありません。

 

いい、悪いの二元論ではなく、バランスよく取り組めばいいと思います。