中学受験をする小学生にとって「電気」は鬼門と言ってもいいのではないでしょうか。
塾の授業を聞くだけですんなりと理解できる子は少ないと思います。そのため、家で親が教えないといけない機会も多いでしょう。
しかし、親自身があまりよくわかっていないということもあるかと思います。かく言う私も得意な範囲・分野とは言い難いというのが正直なところです。
そこで、息子のテキストを開いて二十数年ぶりに勉強し直してみました。そして実際に試行錯誤しながら息子に教えてみました。
いろいろな教え方を試してみましたが、一番効果があったのは「電気の擬人化」でした。ここではそれを紹介します。
なぜ電気がわかりづらいのか
目に見えない
そもそも、なぜ電気が苦手な小学生が多いのでしょうか。いろいろ理由はあるでしょうが、一番は電気が「目に見えない」からだと思います。
電気の働きによって電球が点いたり風車が回ったりはしますが、電気そのものが見えているわけではありません。
目に見えるものと見えないものとでは想像のしやすさが違います。電気とは何か、具体的なイメージを浮かべられないことが理解を難しくします。
計算する
もちろん電気の他にも「目に見えない」ものを扱う範囲はたくさんあります。水溶液中の化学変化などはその最たるものでしょう。
しかし、小学生の範囲では「目に見えない」ものの大半が暗記だけで済ませられます。化学式を知らなくても「○○と□□を混ぜると△△になる」ということを覚えるだけでいいのです。
それに対し、電気では実際に電流や抵抗の値を計算しなくてはなりません。覚えるだけのものと、覚えたものを使って計算するもの、この両者には大きな差があります。
電気を理解するには
「目に見えない」ことと「計算」が必要なこと、この2つを電気が理解しにくい理由として挙げました。
「計算」については電流や抵抗を求めなくてはいけない以上、避けて通れません。これはもう仕方がないので、やるしかありません。
しかし、「目に見えない」ものを「目に見える」、つまり「イメージできる」ようにすることならできなくはありません。イメージさえできてしまえば計算もできるようになるというものです。
数式で覚えるのもいいですが、なぜそんな式になっているかということがイメージできれば間違いも減ります。初めて見るような問題にも対応できるようになります。
そして、イメージを構築するのに有効だったのが「電気の擬人化」です。
擬人化:電気のオッサン
電気を身近に感じられるよう、まずは呼び名を設定します。
別に電気君でも電気ちゃんでも電気お兄さんでも、どんな呼び方であろうといいのですが、うちの息子は電気のオッサン、略して電気オッサンに食い付いたので採用しました。
この電気オッサンは電池に住んでいます。何人も住んでいます。電池がオッサンの家ですね。
そして毎日電池の+極から出かけていき、仕事をして-極に帰ってきます。ただしオッサンは面倒くさがりなので、できるだけ早く家(電池)に帰りたいと思っています。
オッサンは家が好きなので、家では英気を養い元気になります。肉体労働従事者といった感じです。
「仕事に行ってくる」と言って家を出るオッサンのイメージができれば準備OKです。
電池を考える
オッサンの住み家である「電池」について考えてみましょう。
電池の直列つなぎ
電池が直列の場合、電池から出かけたオッサンはすぐに隣の電池に辿り着きます。
自分の家だろうと隣の家だろうと、オッサンは家が大好きです。勝手にくつろいで元気になってしまいます。
電池が2個よりも3個、3個よりも4個の方が、オッサンはどんどん元気になっていきます。
そしてオッサンが元気になれば、オッサンの仕事っぷりも上がるというものです。おかげで電池を直列にすれば電球はより明るく、風車はより速く回ります。
電池の並列つなぎ
電池が並列の場合、電池から出かけたオッサンは別の電池から出てきたオッサンと道で出会います。
オッサンがオッサンと出会ってもお互いうれしくないので、別に元気が出てきたりはしません。といって元気がなくなるわけでもありません。
元気の度合いは変わらないまま、どうぞうどうぞと道を譲りあいながら仕事に向かいます。
オッサンが元気になったわけではないので、電池の個数が増えても豆電球が明るくなることはありません。ただ、道を譲り合っているのでオッサンが家からいなくなる(電池が空になる)のが遅くなり、電池が長持ちするようになります。
抵抗を考える
電池がオッサンの家なら、「抵抗」はオッサンの仕事になります。
抵抗の直列つなぎ
前述の様に、オッサンは基本的に面倒くさがりなので、仕事をしたくありません。早く家に帰りたいと思っています。
しかし、目の前に仕事(抵抗)があれば片付けるしかありません。抵抗が直列の場合は一本道なので、家に帰るためには仕事をするしかないからです。
仕事が2個であろうと3個であろうと、オッサンはなんとかやり遂げます。しかし、その分だけオッサンはクタクタ、仕事の質(豆電球の明るさ)も落ちてしまいます。
抵抗の並列つなぎ
抵抗が並列になっていれば、オッサンはどちらの仕事をするか選ぶことができます。当然、面倒くさがりのオッサンは楽な方を選ぼうとします。
◆どちらの道も抵抗が1つの場合
どちらを選んでも同じなのでオッサンは半々で二手に分かれます。仕事にかかる時間は同じですが、道が2本あるので2倍の数のオッサンが仕事を終えて家に帰る(抵抗が半分)ことができます。
また、それぞれの道でのオッサンの仕事っぷり(豆電球の明るさ等)は抵抗が1つしかない一本道の場合と変わりません。
◆片方に抵抗が1つ、もう片方に抵抗が3つある場合
選ぶ道によって仕事の量が違う場合にオッサンはどうするでしょうか。
オッサンはできるだけ楽をしたいので、当然抵抗が1つの方に行きたいです。しかし、そちらは人気があるため前にいるオッサンが仕事を終えるのを待たなくてはなりません。
待っていては家に帰るのが遅くなるので、嫌々ながらも抵抗が3つの方に行くオッサンも出てきます。
抵抗が1つの方は待ち時間が1、抵抗が3つの方は待ち時間が3なので、オッサンが4人いれば3人は抵抗が1つの方、1人は抵抗が3つの方を通る(電流が3:1)と待ち時間が同じになります。
抵抗が3つもあるあまり人気のない道ではありますが、多少なりともオッサンが通ることになります。どんな道であろうとも道が増えることには変わりないので、抵抗が並列になれば回路全体としての抵抗は小さくなります。
ショート回路を考える
一切の抵抗なく電気が+極から―極まで流れることができる回路を「ショート回路」といいます。ショート回路では電気があっという間に流れ切ってしまうので、電池がすぐになくなってしまいます。
繰り返しになりますが、オッサンは面倒くさがりです。できるだけ楽な道を選んで家に帰ろうとします。
仕事が無ければ家が大好きなオッサンはすぐに家に帰ってしまうのです。
電気オッサンの気持ちになる
電流と抵抗の問題はなかなか複雑なものがあります。電池を逆向きにセットしたり、スイッチを入れたり切ったりしたり、その他いろいろなケースがあります。
全部のケースを覚えてしまおうと言うのは得策ではありません。基本的な考え方を覚えて置き、それを応用するのが正しい姿です。
基本とは数式であったり塾で習った手順であったりするわけですが、ただのルールとして覚えていてはなかなか身につきません。
やはり感覚的に理解しておくということが必要です。感覚的な理解には電気のオッサンになり切る、オッサンの気持ちになるというのが役立つかもしれません。